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Life in Progress

Bismarck鯖でおバカな日常を繰り返しているタルタルの、音楽と愛と欲望(?)に満ち溢れたFF11&リアル日記。
2024
04,28

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2005
06,28

«未来»

050620_194755.jpg


「天体観測ってしたことある?」
「天体観測?小学校のとき屋上で見たくらいだな」
僕の返事に、彼女はちょっぴり失望したような表情を浮かべた。
よく見ると、いつからか、彼女の目の奥に光るものが見える。
梅雨時の空模様のせいで、ちょっぴり膨らんだクセのあるダークレッドの髪の毛をクルクルと指に巻きつけながら、彼女は上を見上げた。
見えたのは星でも月でもなくて、単なる鉄パイプと鉄骨でできた人工的な空間だった。

★☆★


7月の呼び声が近づいてくる6月の終わり。
今年は、梅雨らしい日というのをおおよそ感じられなかった。
雨嫌いの自分にとっては、ちょっぴりほっとしながら、朝焼けの空を見上げてた気がする。
不透明な空ってのはどこか不安だけが浮き彫りになるみたいで、思わず自分の鬱な側面を向かい合うことになっちまうのがたまらなく嫌だった。
そんな雨とも無縁だと思って出かけた週末の日曜日。
普段行きなれない渋谷にCDなんて買いにいこうと思ったのが間違いだったのだろうか。
首筋にふと冷たい感触を覚えたのがつい先ほどのこと。
目的のCDショップに行き着く前に既に音を立てて落ちてきた水音に終われるように、僕は近くの家電量販品へと逃げ込んだ。
−そして、たまたま天体望遠鏡コーナーのところでばったりと出会ったのが、クラスメートのユウだったのだ。

「珍しいな、雨宮も。日曜は勉強とかしてるんだと思ってた」
「う、やっぱり未来くんもそう見える?そんなガリ勉じゃないよ、わたし」
そういいながら、端正なその顔に少ししわを寄せて笑う雨宮ユウの姿は、確かにクラスでいつも見せる優等生の表情とは違って、やわらかく、そしてお世辞抜きでも可愛いと思う。
学校での彼女は、ガリ勉というよりは、どこか近寄りがたい、冬の朝のような空気を纏っていて、僕のみならずクラスの男子は声をかけるやつさえ少なかった。
もっとも、高2になっても未だ色恋沙汰とは凡そ縁のない僕が、本当の雨宮の姿を知らなかったとしても無理はないのだろうけど。
ちなみに、「未来くん」ってのは渾名じゃなく、僕の本名だ。
水無未来という本名を口に出しても、一度で理解されることは少ない。
いつもは照れくささを力づくで抑えてしまいたくなるその名前だけど、普段と違うシチューエションで、女の子から発音されると、意外にも悪い気がしないもんだな、と僕はどこか熱っぽくなる自分を意識していた。

「あ、雨宮は何してるんだ?こんなところで」
「・・・ちょっとね、お買い物に寄ったついでに、コレを見に来たんだ」
そう言いながら彼女が指差したのは、白く丸いフォームが印象的な天体望遠鏡だった。
こんなもの見たのは、いつ以来のことだったんだろう。
そして、彼女は少し目をそらした後、もう一度僕の目を覗き込むようにこう言った。
「未来くん、天体観測ってしたことある?」
その続きが、冒頭のシーンというわけだったんだ。

★☆★


天体観測といって思い出すのは、バンプオブチキンの曲といったレベルの僕にとって、彼女のその翳った表情は予想外のことだった。
もともと女の子と話すことに慣れてないせいもあって、思わずうろたえてしまう。
「い、いや、その、天体観測、いいと思うよ。ほら、しし座流星群とかなら、ちょっとベランダから姉貴と一緒に見たことあるし・・・」
正確には姉貴が見ていた、だけなのだが、心の中で姉ちゃんごめん、と一言謝っておいた。
僕の必死の答えにも彼女は特に反応を示さず、天体望遠鏡を一撫でし、やがてショートカットの髪の毛を揺らして出口の方向へと立ち去った。
ざーっと雨の音だけが戸口の方から音を増して、僕の耳に突き刺さる。

結局僕はビニール傘を購入し、出口の方へと足を踏み出した。
ユウは戸口に立ち、落ちてくる雨粒の等加速度運動を計算するかのように、じっと薄暗い空を見つめている。
「・・・やまないな、雨」
「うん」
よかった、シカトされなかった、と僕はちょっと胸を撫で下ろしながら、ほらよ、と傘を差し出す。
「え?これ今買ったの?」
「必要なら使ってくれればいいよ。オレが送っていきたいところだけど、また怒らせるのイヤだし」
昔からつい言わなくていいことを言ってしまうのが僕の悪いクセだった。
また変なこと言ってしまった、と思いつつ彼女の方を見ると、彼女は意外にも傘をそのまま握り締めたまま・・・なぜか片側の手で僕の手を取った。
「未来くんごめん・・・ちょっとだけいい?」

女の子の手って柔らかいな。
ショートしてる頭はそんな言葉だけをぐるぐるとかき回す。
僕は、しびれた片側の手をできるだけ意識しないようにして、狭いビニールの傘に彼女と僕の身体を押し込めて、すぐ近くのカフェへと走った。
ちょっぴり上を見たり、はたまた下を見てグルグルとアイスラテをストローでかき回すユウが落ち着いたのは、それからたっぷり20分してからのことだった。
「ごめん、わたし変だったでしょ・・・実はね、さっきお父さんとケンカしてきたの」
「ケンカ?」
意外な展開に僕は思わずその言葉を聞き返した。
彼女は黙ってかぶりを振ると、再びストローをぐるぐるとかき回した。
既にアイスラテは泡だってしまっていたけれど、僕は何も言わずに彼女の冷たい手の温度だけを感じていた。

「わたし、小さい頃から星が好きでね。いずれは天体観測の研究をして、宇宙開発の分野なんかとも連携を取っていきたいなって思ってるんだ」
「でも、さっきお父さんにこっぴどく怒られちゃった。趣味と本業を見失うやつがあるかって・・・なんだか泣きたかったけど、わたしも素直じゃないからそういう自分がいるのもイヤで、飛び出してきちゃった」
成績優秀、容姿端麗なんていうマンガに出てくるようなキャラそのまんまの彼女の口からそんな言葉が出てくるのが意外で、僕は汗をかいたフラペチーノの器をそっと引き寄せながら、自分の環境を思い起こしていた。
僕と同じだけの年数しか生きてない彼女が、こんなにも真摯に、真剣に自分の将来について考えてることに、僕は何よりもびっくりしたんだ。
それに引き換え、僕ときたら、背も普通で、勉強だって大して目立つことはない。
今時っぽいランダムカットの頭、ファッションは古着中心だけど、別に特別オシャレなわけじゃないし。
適当に好きなバンドのCDをエアチェックしたりしてるだけの、平凡な高校生。
なんでユウがそんな僕に悩み事を打ち明けてるのか、さっぱり理解できなかったのだけど、次の彼女の言葉はそんなつまらない謎を氷解させるのに十分だったんだ。

「未来くんは・・・ご両親から星の研究とかしろって言われたりしない?それってすごく羨ましいなって・・・」
そうか、それは僕ではなく、僕の両親を透かしてみた言葉だったんだ。
そう思った瞬間、僕はなんだかたまらなく切なくなった。
僕の両親は、いわゆる宇宙開発の分野で一年の半分はヒューストンにいる。
正直、両親は僕の進路には至って興味がないようで、僕も一言だって相談をしたことはなかった。
もっとも、深く考えていなかったってのが一番の原因なんだろうけど。

ただーそうにしたって、なんだか初めて自分を必要としてくれたと思った相手が、実はそうじゃなかったってのは、僕が思う以上にたまらなくショックだった。
別に必要とされたいなんて思ったことはないけれど・・・どうでもいい、っていう感情は、誰かに嫌われるよりもずっとずっと堪えるんだということを、僕は初めて知った。
結局、僕がいえたのは一言だけ。
「そういうこと聞きたいなら、オレじゃなくて、親に直接聞いてくれればいいよ。オレは雨宮には必要ないじゃん・・・」
ビニール傘を置いたまま、僕は彼女の手を離し、席を立って雨降りしきる渋谷のセンター街へと飛び出した。
冷たいように見えた雨も、ユウの手よりはずっと温かいような気がした。

情けないよな、そう僕は何度も口に出して雨の街を走った。
なんだか、世界中の誰にも結局相手にされないガキなんだよ、と歩いてる人から笑われてるような、そんな気分。
道の端に微かに色を添える青い紫陽花が、不意に滲んで、やがて後ろへと流れていく。
結局濡れたまま僕は家に着き・・・案の定というか、体をたっぷり冷やしたツケが次の日に回ってきた。
ピピッと無表情な音を立てた体温計には、38.9℃という数字がチカチカと点滅していた。
僕は、学校に熱のため休む旨を電話で告げて、気だるい体を引きずりながら再びベッドへと潜り込む。
窓の向こうでは、夏が来るのを拒むかのように、薄暗い雲の群れがひたすら空の青を押しとどめていた。

★☆★


いざ眠ろうとしたとき、ガタンと玄関で音がした。
「ただいまー、未来いるの?熱あるっていうから心配しちゃったじゃない」
重たい鉄製のドアをきしませながら入ってきたのは、姉貴だった。
「おかえり、デートどうだった?」
「うーん、雨降っちゃって結局ずっとお茶飲んでた・・・ってコラ、あんたにデートって言ってないじゃん」
ごつんと可愛い弟の頭を容赦なく叩いた姉貴は、僕と3つ年が離れている。
少しだけ外にカールした素直なロングヘアの、如何にも上品そうな顔立ちとは裏腹に、中身は結構あのシーザーと比肩できるくらいの横暴さを持ち合わせているとかいないとか。
ブルータスな立場の僕は、いつか下克上を・・・という冗談はさておき、僕と姉貴は、世で言う姉弟の中ではそれなりに、というよりはかなり仲のいい部類に入ると思う。
あまり真剣な話をしたことはないけれど、僕も姉貴も意外と二人でどこかに出かけることもあったし、姉気がが母親との間のいい緩衝材のような役回りを立ち回ってくれることもあって、それなりに頼りにしてる人だ。
もっとも、そんなこと姉貴に言ったら絶対に調子に乗るか、頭おかしいんじゃない?とか言われるに違いないのだけど。

「それより、あんた熱はもういいんでしょうね?」
「うん・・・だるいけど。朝帰りの姉ちゃんに心配されたくないなあ」
「本当に可愛くないヤツ・・・別に秘密にすることなんてないわよ」
そう言いながら姉貴はプラダのケリーバッグを乱雑にテーブルへと乗せて、そのまま台所へと立った。
やがて、お酒の甘い香りがプンと空気を支配する。
「玉子酒つくってあげるから、ちゃんと寝ていなさいよね。わたしにうつされるのが一番困るんだから」
ブツクサいいながらも、姉貴はせっせと手際よく玉子酒を準備し、ダイニングでおとなしく座っていた僕にトンと音を立ててマグカップを置いた。
もう体の方はそんなに熱っぽくはなかったけど、こうやって不意に優しくされると意識してないところから涙が溢れてきそうで、僕は慌てて外を向きながらまだ熱い玉子酒をすすった。
一口、二口と飲むうちに、じんわりと体中が発汗していくのが分かる。
それは、不思議と心の中にまで沁みていくような気がして−僕は、心の壁ってやつも意外と細胞壁と同じような構造なんだろうな、と授業で習った細胞壁の図を思い描いてみた。

「姉ちゃんはさ、どうやって進路とか決めた?」
まだじんわりと熱を持ったマグカップを片手でまわしながら、僕は姉貴の目を見ないままそう呟くと、姉貴は少し間を置いてこう答えた。
「・・・進路ってさ、嫌な言葉よね。
別に進むべき道なんてどこにもないのに、まるで道があるような言い方するから。
生まれたときは確かに無限の可能性を秘めて生まれてきたはずなのに、結局何もない道を、色々な制約の中で歩いてきただけのような気がする。
わたしもね、あんたも知っての通り大学に進んだけれど、特にやりたいことを決めて専門を決めたわけじゃないの」
姉貴の専門は、デザインと認識論が融合したような分野らしいんだけど、前に話を聞いたときはチンプンカンプンだった。
その話を聞いたとき、「人の認識という切り口からデザインを考えていくと、デザインってのは単なる芸術に押し留めるのは勿体無い、非常に理知的な分野の学問だということを再認識するわ」なんてことを言ってた覚えがあるのだけど。
「大事なのはね、今の時点で進むべき道が思いつかないというのも、立派な意思だってこと。勿論それを隠れ蓑にしたらいけないけれど、自らの意思で全ての可能性を追求することは悪いことじゃないわ」
そして、姉貴は片目をつぶり、こう付け加えた。
「今のは、お父さんの言葉の受け売り。可能性を絞らないことも、また無意味に絞り込むことも、同じくらい価値のないことなんだって」
「でも、オレやりたいことなんて思いつかないしさ・・・誰かが必要としてくれるとも思えないし・・・なんかヤだなあ、こんなのって」
珍しく弱気な僕に目を細めた姉貴は、ツカツカと立ち上がり、僕の頭をぐしゃぐしゃとかき回し、こう呟いた。
コツ、コツと時計が規則正しく秒針を刻む音が妙に大きく聞こえる。
「そんな偉そうな弟なんて要らないわよ、わたしは。誰かのために生きてるわけじゃないじゃない、未来だってさ。
自分のために生きて、その中で助けられるときがあれば助ける、助けて欲しいときがあれば助ける。
家族だってそうよ。そういうときのためにわたしやお父さん、お母さんがいるんじゃない」
「・・・うん」
殊勝に頷いた弟の顔に満足したのか、姉貴は照れくさそうに髪の毛をかきあげ、シャワールームへと姿を消した。
やがて聞こえてきた水の音をBGMにしながら、僕は今の姉貴の言葉と、進む道を見据えて真っ直ぐに話をしていたユウの顔とを交互に思い返していた。
僕は、いつか誰かに必要だと思ってもらえる存在になれるのだろうか。
思えば思うほどに熱っぽくなる体を引きずり、僕は再びベッドへと転がり、目を閉じる。
夢の中で、僕は無限の可能性を持ったままの生まれたての赤ん坊へと還っていった。

★☆★


次の日。
珍しく連日での雨模様。
やっと学校へと登校した僕は、6限目が終わるやいなや学校を飛び出し、もう一度渋谷へとやってきた。
制服姿のままで歩く渋谷は、ちょっぴり不思議な気分。
水の防御壁がまるで一人一人を隔離してるかのようにも見えて、いつも嫌いな雨だったけど少しだけスキになれそうな気がした。

ストライプブルーの傘の下に守られながら、昨日の天体望遠鏡売り場へと急ぐ。
傘の水を払い、望遠鏡に手を伸ばそうとしたとき、ふと人の気配を感じて振り向いた。
「・・・雨宮」
雨宮ユウが立っていた。
今日はブレザーの制服を着ているせいか、いつもの凛とした佇まいだった。
ただ、走ってきたのか、少し上気しているようで、慌ててる雨宮も珍しいな、なんて暢気に考えている自分が少しおかしかった。
「追いかけてきたんだ、未来くんを。ここに来るなんて思わなかったけれど」
「・・・親に連絡取れとかそういうの?だったらオレは悪いけど力になれないよ」
「そんなんじゃない、違うよ未来くん」
「いいから黙って聞けって!
オレは雨宮と違って、自分のやりたいこともわかんない、情けないヤツなんだ。
親が夢のある仕事してても、息子は何の夢も持っちゃいないんだよ。
親も自由に育ててくれてるのか、特に何もオレに要求したりもしないのが、正直悔しいんだ、いつも。
そんなオレに雨宮みたいなヤツがあれこれ言っても、眩しすぎるだけでさ・・・辛いんだよ」
一気にそう吐き出すように言って、ユウの方を垣間見ると、彼女は意外にもその上気した表情を崩さず、僕の目をただじっと見ていた。

「だから違うの・・・別にご両親に話を聞きたかったとかじゃない。
勿論そうできたらうれしいけど・・・わたしは未来くんと話をしたかったの。
正直言うと・・・わたしがこうやってやりたいこと決めたのは、両親が反対するの分かってたから・・・それだけなんだと思う」
「え?」
「だってこんな年でそんなやりたいこととか決めちゃってる人の方がおかしいと思うもん。
悩みは違えど、同じように私以外の人だって悩んでるんだってことが分かって、ちょっぴりほっとしたんだ。
未来くん、いつもやりたいことを真っ直ぐにやってるような気がしたから・・・そんな人でも悩んでるんだーって」
そう言うと、ユウはちょっぴり複雑そうな表情を浮かべたまま僕から目を逸らした。
だんだんと、昨日見た防御壁の薄い表情へと帰っていくみたいに見える。
「オレ、そんな風に見えてたんだ」
「うん・・・といっても、クラスの女の子たちがそう言ってただけなんだけどね。
未来くんって、迷わないでやりたいことやってるような感じだよねって。
そんな人に偶然会って、つい甘えちゃっただけなの」
そう言いながら笑うユウの向こうには、どんよりとした雲を押しのけて青い空がチラチラと顔を覗かせているのが見える。

 誰かのために生きるわけじゃない。
 でも、自分がそれを忘れない程度には、誰かに必要とされたい。
 そう思うから、僕たちは迷うんだ・・・
それに気付いたとき、僕はふと憑き物が落ちたような気がした。
親に、じゃなくて、僕と話をしたいという彼女の言葉がなんだか嬉しくて、僕はその感触を忘れたくないな、とその瞬間ひたすら願ったんだ。
その感触を、その生まれたばかりの情熱を忘れたくないから。
僕は傘を畳みながら、天体望遠鏡を買うために店員に向かって手を上げた。

★☆★


あれから数年が経ち。
僕は、結局両親の分野とは全く関係のない、法学を専攻し、大学卒業後は潰しの利く営業職を選んだ。
ユウはどうやら夢だった宇宙開発センターへの勤務が決まったみたいで、年に2、3回ほど細々とメールで連絡が来る。
あの後、別に彼女との関係が変化したわけではなく、たまに望遠鏡の話や星の話をしたくらいだった。
結局、いつだって思うようには道は開いてくれないし、小説のように輝かしいエンディングが待ってるわけでもない。
それでも、何もないこの場所には、今だって無限の可能性は残ってるんじゃないか、と年を経るごとに思うようになれたのは、ちょっぴり幸せなことだなって僕は苦笑いするんだ。

ただ、一つだけ変化したことがある。
やっと自分が生きていきたいと思う道を見つけたような感触を掴んだことだった。
それは残念ながら今の仕事ではなく、大学時代に学んだ法学の延長で、新しい宇宙法の模索をしていきたいという想いだった。
大学にいたときには、やりたいことというより半ば気だるい義務感のみに突き動かされていた法学の世界も、こうして不思議と有機的に今までの人生と絡み合いながら収斂していくというのが、とても不思議なことだったのだけど。

未だに独身貴族を謳歌している姉貴は、たまに僕の家に顔を出したかと思うと、あれこれ面倒ごとを持ち込んでくる。
大抵は自分でセッティングのできない家電やPCの操作だったりするのだけど、その時々に彼女はこう付け加えるようになった。
「ね、未来のこと頼りにしてる人がいるってウソじゃないでしょ。ま、便利屋さんだけどね」
「便利屋って何だよ・・・」
僕は苦笑いしつつも、その言葉を受けるたびにベランダのそれに目を向けた。

今でも、あの天体望遠鏡は、白いその姿をずっと遠くの星に向けて起立している。
−恋にもならなかったあの日の感触と、ほんの少しの情熱を消さないように。
今日も僕は、天体望遠鏡の向こう側から、未だ来ない道の果てを見つめ続ける。

というわけで、55555HIT記念第一弾のショートショートをお届けしました。

ぶっちゃけ短編にしては濃いし、中篇にしては長さが中途半端なんですが、短編でありがちな状況説明の文章を少なくして、その分テーマに絞り込んで書きたいなあと想って、色々考えた結果、こうなりました。
まあ、それほど重たい作品でもないけれど、何らかの感情の機微がちょっとでも働いてくれれば、すごくうれしいです^^
(もうちょい推敲したい部分もあるし、本当はもう少し丁寧に描写した中篇〜長編として膨らませたかったんですが、時間の都合もありましてw)

後から振り返ったときにちゃんと地に足をつけて歩いてこれたな、と思える軌跡がこの先あなたを待っていますように。

※ちなみに、未来という表題及び主人公の名前、ミスチルの新曲に示唆を受けました。
久々にステキな曲に出会ったなあ。
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一気に…
最初は物語だと思わずに読み進んでました
男性の心情が細やかに描写されてて
読んでいてやっぱり新鮮でした。
素敵な才能だなぁ…
なつ: 2005.07/05(Tue) 22:13 Edit
無題
途中で1ヶ所だけ「ユキ」になってるのはご愛嬌(謎)
あやみ: 2005.07/06(Wed) 19:27 Edit
無題
 最初はこのまま恋に落ちるのか!と思ったら、だんだん未来の内面へとシフトしていく。未来の自分に対する不安定な心の動きが、ものすごくせつない。僕の存在の希薄さを見透かされてるようで。

 ユウに未来が親との関係を聞かれて受けたショックって、自分の存在の希薄さを認識させちゃったんだろうな。無力な自分。懸命に忘れようとしてる傷口をまたえぐられるように。痛みに耐えかねて出てくる言葉は、また自分を傷つけて。そうやって、どんどん自分に余裕がなくなってくるんだよね。そして、相手の心がどんどん見えなくなって自分の壁の中に閉じこもっちゃう。そうやって、自暴自棄になる事がある・・・。でも、相手も何か思うところがあって言ってるんだろうな・・、って後から気がついて後悔するのだけど。

 誰かに必要とされたいって思うのは、必要とされることで自分の立ち居地を把握したいからなのかもしれない。そうやって自分の居場所を作って安心したいのかもしれない。そう求めるのは寂しさの裏返しなのかなって。そうやって、何かしら人とつながってないと自分が空虚で消えてしまいそうだから。自分が空虚なのは、自分の進みたいもの、自分の可能性が見出せないからなのかな。だから、自分のために頑張れない自分がいる。頑張れないから自信がなく、空虚に感じてしまう。
 
 人は自分のために生きている、って言葉が心にしみこんだんだ。人のために生きてるんじゃない。それは、自分のために頑張るって事と同義なんだよね。でも、存在を希薄に感じる。だから、人のために生きたいって自分がいる。それは期待をもたれるって事でもあるし、自分の存在を人に捧げることなのかもしれない。そうすれば空虚な自分が満たされる気がするから。

 でも、こういうのって歪なのかもしれない。未熟だから歪なのだろうけど・・・。でも、ちょっとづつ自分で全て解決せずに家族や友人に助けてもらいながら大人になっていくのかもしれない・・・。
えるでぃ〜: 2005.07/08(Fri) 00:25 Edit
・w・
メールやメッセで、色々とコメントをいただいたんですが、みんな「感想が複雑すぎてかけないw」とのこと。
というか、それ面倒なだけジャマイカ・・・w

>なつさん
こう年を取ると、逆にこの年代の微妙な心の動きの描き方って難しいなと思うわけで。
恋だの愛だのにのぼせてた時代には、意外とそんな彼らのことがよく書ききれてなかった気もするんだよな。
新鮮に思っていただけたら、それすごくうれしいです。
読んでくれてありがとう^^

>あやみちゃん
いきなり突っ込みだけかよwww
・・・名前最初思いつかなくて、全部ユキ(仮)にしてたのがばれるorz
最初は雨宮だけだったんだよね^^;
ユウってのは、実はU(リターン)の意味と夕暮の夕をかけた名前にしました。
未来という名前を司った少年が彼女の存在をカギに過去を併せ持つことが出来るんだってのが最初の設定で。
結局、そこまで過去に縛られない形でできちゃったんだけどw

>えるでぃ〜さん
もはや、感想というより分析されてるような感じだけど・・・読み込んでくれてありがとうw
誰かと必要とされたいって願望は、きっとあるときまで全く気が付かない願望じゃないかって思うんですよね。
なぜなら、学生って立場や子供という立場は、それをうまく忘れさせてくれるように機能しているから。

大人になるってのは、頭が悪くなるってことだ、そんな言葉を聴いたことがあるんです。
未来の場合も、そういう願望を意識し、他に頼っていくことを覚える過程は、ある意味純粋でなくなってく過程でもあって。
まあ、そんな微妙な味わいを久々に意識して書いたので、そんな部分を汲み取ってもらえたのはすごくうれしいかも。

なーんて恥ずかしいな、自分の作品にあれこれ書くのはw
というわけで、コメントくれた皆さん、ホントにありがとう。
もしよかったら、また色々とコメント寄せてやってください。その一言でまた書く気になると思うので・v・
タレ: 2005.07/11(Mon) 14:08 Edit

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プロフィール
HN:
タレ
性別:
男性
職業:
ホストと言われるけど違います(´・ω・`)
趣味:
音楽だいすっき!
自己紹介:
Bismarck鯖でぼんやりと生きています。
音楽大好き(聞くのも弾くのも作るのも)、それなりに拘るけどがむしゃらは好きじゃない、PTは会話がないとつまんない・・・そんなヤツの日常ですが、よかったら見てやってくださいませっ。

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