2004 |
03,11 |
FFで楽しいのは、なんといっても、出会えることが難しいような多種多様の人たちとたくさん接することができること。
でも、実際は日常生活でもそれは同じ。
日々色々な年代の色々な方と仕事で接するのだけど、その中でもちょっと忘れられない出来事になりそうなことを記したいと思う。
その方はもう70を超えたおばあちゃん。
体をずいぶんと悪くしていて、なかなか出不精なんだけど、上品な物腰と笑ったときの笑顔がなんともキレイで、失礼な言い方ながらかわいらしい印象を受けるんだ。
すごく大きな残高でヘッジファンドという形式のリスク商品を持ちながらも、その仕組みを何度説明しても忘れる、そんなよくいるおばあちゃん。
家の電話は今でもジリリリリリンとなるダイヤル式の電話で、電話をかけると、いつもカチャンと受話器をとる特有の音がなるから、その音を聞くたびに反射的にその人のことを思い出す。
ヘッジファンドという商品は、数あるリスク商品の中でも比較的値動きの小さい商品なので、それほどマメに話すわけではないんだけど、電話するたびに、電話の半分は彼女の今までの人生についての話になる。
大手町で一人でキャリアウーマンなんて言葉がない時代から、男たちの間でもがいて働いてきたこと。
身よりもなく、一人で生きてきた結果、帰る家がなくなったこと。
決して明るい話ではなくて、暗い話のが多かったけれど、それでもそれを語る彼女自身はすごく楽しそうで、半年に一度の会話なんだけど、僕はその瞬間をすごく心待ちにしていた。
勿論、収益性という天秤でかけると、時間の効率からいっても決していいとは言えないんだけど、子供のいない彼女にとっては、20代の若い自分と話すのは、ひとつ刺激的な時間なのかもしれないって思うんだ。
そして昨日、彼女は運用益の出ている商品を解約したいという名目で僕の元へと相談にやってきた。(以下仮にOさんとしておきます)
Oさん:「ねえ、Taletさん、実はね、私もう売却しようかと思って、全部…」
オレ:「今、運用益もそこそこ出てますし、日本株の状況から言って、出遅れてた優良株といわれる銘柄も、円高での収益吸収もあって、おそらく十分期待できるとは思うので、今すべて売却されるかどうかは、もうちょっと考えてみてもいいんじゃないかなって思いますけど。。。どう思われます?」
一応自分なりに、彼女の資産のポートフォリオ(運用の組み合わせ)を考えて、もってもらえてると思っていたので、僕が答えたものは、普通に妥当な判断だと思ったんだ。
しかし、次の言葉はちょっと僕の予想と異なっていた。
Oさん:「私ね、田舎で老人ホームに入ろうかと思って、、、Taletさんに会うことができなくなるから」
身寄りも親戚もいないというOさんは、いつ自分が倒れるかわからないというのを口にして、いざ自分が自分だとわからなくなっちゃうようなときがあったときに、ちゃんと自分を見ててくれる人がいてほしい、と僕に呟いた。
その顔は、すごく切ない表情で、僕は思わず息を止めて彼女の顔を見た。
誰かにいてほしい−いくつになっても思う感情なんだろうけど、彼女のその顔は、多分僕が想像してるそれよりもずっと意味合いも重さも違うものを抱え込んでいるようで、、、一個人としても、社会人の立場としても、「それじゃ、解約しないといけないですね;」というのが精一杯だった。
それから、しばらく話し込んで彼女は帰っていった。
それは、ほとんど、僕に関することや心配事ばかり。
「東海大地震とか来たら、あなたの住んでいる場所も危ないってこの前ニュースでいってたから、教えてあげようと思ってたんだけど。。。あれ、いつの番組だったかしら」
「名古屋であなたがよく行っていたっていう紅茶屋さんね、すごくいいお店だってお友達がいってたわ」
そして、散々世話を焼いたあと、手にもっていた大きな紙袋を僕に差し出したんだ。
Oさん:「これ、あなたにあげようと思って買ってきたの」
オレ:「ええ!?そんな気使わなくていいんですよー;普通に会いに来ていただければもうそれで」
Oさん:「ほら、こうやってちゃんとお話できるのも最後になるかもわからないじゃない?」
そういって、Oさんは立ち上がると、
「あなた、よく自炊するって言ってたでしょう?その足しになるくらいのものだから、全然たいしたものじゃないのよ」
といいつつ、手を振って春風の吹き始めた街へと消えていった。
家に帰って紙袋に入っていた品の包装を解いてみる。
中に入っていたのは、いつになったら食べ終わるんだろうっていうくらいの量の佃煮だった。
正直、自炊するといっても、毎日ご飯をたくわけじゃないし。
いつになったら食べ終わるんだろと思うと本当ならちょっとおかしいはずなのに。。。全然笑えなかった。
一口ご飯に乗せて食べてみる。
それは、すごく温かくて、…Oさんが言っていた田舎の匂いのする、懐かしい味がした。
でも、実際は日常生活でもそれは同じ。
日々色々な年代の色々な方と仕事で接するのだけど、その中でもちょっと忘れられない出来事になりそうなことを記したいと思う。
その方はもう70を超えたおばあちゃん。
体をずいぶんと悪くしていて、なかなか出不精なんだけど、上品な物腰と笑ったときの笑顔がなんともキレイで、失礼な言い方ながらかわいらしい印象を受けるんだ。
すごく大きな残高でヘッジファンドという形式のリスク商品を持ちながらも、その仕組みを何度説明しても忘れる、そんなよくいるおばあちゃん。
家の電話は今でもジリリリリリンとなるダイヤル式の電話で、電話をかけると、いつもカチャンと受話器をとる特有の音がなるから、その音を聞くたびに反射的にその人のことを思い出す。
ヘッジファンドという商品は、数あるリスク商品の中でも比較的値動きの小さい商品なので、それほどマメに話すわけではないんだけど、電話するたびに、電話の半分は彼女の今までの人生についての話になる。
大手町で一人でキャリアウーマンなんて言葉がない時代から、男たちの間でもがいて働いてきたこと。
身よりもなく、一人で生きてきた結果、帰る家がなくなったこと。
決して明るい話ではなくて、暗い話のが多かったけれど、それでもそれを語る彼女自身はすごく楽しそうで、半年に一度の会話なんだけど、僕はその瞬間をすごく心待ちにしていた。
勿論、収益性という天秤でかけると、時間の効率からいっても決していいとは言えないんだけど、子供のいない彼女にとっては、20代の若い自分と話すのは、ひとつ刺激的な時間なのかもしれないって思うんだ。
そして昨日、彼女は運用益の出ている商品を解約したいという名目で僕の元へと相談にやってきた。(以下仮にOさんとしておきます)
Oさん:「ねえ、Taletさん、実はね、私もう売却しようかと思って、全部…」
オレ:「今、運用益もそこそこ出てますし、日本株の状況から言って、出遅れてた優良株といわれる銘柄も、円高での収益吸収もあって、おそらく十分期待できるとは思うので、今すべて売却されるかどうかは、もうちょっと考えてみてもいいんじゃないかなって思いますけど。。。どう思われます?」
一応自分なりに、彼女の資産のポートフォリオ(運用の組み合わせ)を考えて、もってもらえてると思っていたので、僕が答えたものは、普通に妥当な判断だと思ったんだ。
しかし、次の言葉はちょっと僕の予想と異なっていた。
Oさん:「私ね、田舎で老人ホームに入ろうかと思って、、、Taletさんに会うことができなくなるから」
身寄りも親戚もいないというOさんは、いつ自分が倒れるかわからないというのを口にして、いざ自分が自分だとわからなくなっちゃうようなときがあったときに、ちゃんと自分を見ててくれる人がいてほしい、と僕に呟いた。
その顔は、すごく切ない表情で、僕は思わず息を止めて彼女の顔を見た。
誰かにいてほしい−いくつになっても思う感情なんだろうけど、彼女のその顔は、多分僕が想像してるそれよりもずっと意味合いも重さも違うものを抱え込んでいるようで、、、一個人としても、社会人の立場としても、「それじゃ、解約しないといけないですね;」というのが精一杯だった。
それから、しばらく話し込んで彼女は帰っていった。
それは、ほとんど、僕に関することや心配事ばかり。
「東海大地震とか来たら、あなたの住んでいる場所も危ないってこの前ニュースでいってたから、教えてあげようと思ってたんだけど。。。あれ、いつの番組だったかしら」
「名古屋であなたがよく行っていたっていう紅茶屋さんね、すごくいいお店だってお友達がいってたわ」
そして、散々世話を焼いたあと、手にもっていた大きな紙袋を僕に差し出したんだ。
Oさん:「これ、あなたにあげようと思って買ってきたの」
オレ:「ええ!?そんな気使わなくていいんですよー;普通に会いに来ていただければもうそれで」
Oさん:「ほら、こうやってちゃんとお話できるのも最後になるかもわからないじゃない?」
そういって、Oさんは立ち上がると、
「あなた、よく自炊するって言ってたでしょう?その足しになるくらいのものだから、全然たいしたものじゃないのよ」
といいつつ、手を振って春風の吹き始めた街へと消えていった。
家に帰って紙袋に入っていた品の包装を解いてみる。
中に入っていたのは、いつになったら食べ終わるんだろうっていうくらいの量の佃煮だった。
正直、自炊するといっても、毎日ご飯をたくわけじゃないし。
いつになったら食べ終わるんだろと思うと本当ならちょっとおかしいはずなのに。。。全然笑えなかった。
一口ご飯に乗せて食べてみる。
それは、すごく温かくて、…Oさんが言っていた田舎の匂いのする、懐かしい味がした。
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