2004 |
05,13 |
人が行き交う週末の夜。
湿気のない乾いた暖かさを纏った空気が、一帯に広がって、ちょっぴりヒュプノスの神を起こしてしまいそうな、そんな春の夜。
子供の頃、初めて買ってもらったフルートのように、透き通ったシルバーの月が、目の前に大きくぶら下がっているのが映る。
車道の前で手を上げると、そこに一台のタクシーが滑り込んできた。
「どちらまで行かれます?」
「ちょっとそこまで」
僕が答えると、頭に白いものが混じる堅実そうな運転手は、顔を顰め、怪訝そうな顔で僕を見やった。
軽く咳払いし、僕はもう一度言い直す。
「あそこに見える月まで」
車は滑らかに、推進力を上げて、ふわりと風に乗った。
アルデバランの赤い星を斜め下に見ながら、タクシーは斜度を上げて浮かんでいく。
「月に何しにいくんだい?兄ちゃん」
「ちょっと、人に会いに行くんだ」
「ほー、カノジョさんかい?」
如何にも堅物そうな印象の運転手の声のトーンがちょっぴり柔らかくなる。
硬質のバイオリンからチェロへの変化くらい、微妙な変化ではあったのだけど。
やがて、タクシーは止まり、静かの海の真中で僕は降りた。
地上へと走り去るタクシーのテールランプが赤く2回点滅し、やがて真っ黒な宙の彼方へと吸い込まれていく。
瞼を閉じた。
その裏に浮かぶいくつもの情景。
走り去って、やがて収斂していく距離。
ふと目を開けたときには、君が横にいたんだ。
静かの海の真中で、少しウェーブした髪を払い、ゆったりとしたドレスの裾を引き摺って、僕の手を握る。
なんて穏やかな時間なんだろう。
こんなに満ち足りて、温かな時間があるなんて、思ったこともなかったんだ。
子供の頃、カゼで寝込んでる時にお袋が作ってくれたホットミルクみたいだ、とちょっと思い出して僕は一人でクスクスと笑う。
そんな僕を見て、柔らかな笑顔を見せる君と、一緒に並んで腰を下ろした。
時に制限のない状態でふらりと宙に浮かんでるような、そんな感覚に僕はしばし酔った。
「…さん?」
誰かが僕を揺り動かしている。
このまま目覚めなければいいのに、と思いつつ、目を擦りながらぼやけた視界の向こうに見えてきたのは、タクシーの運転手の顔だった。
「もう着きましたよ」
目を開けると、そこは見慣れたマンションの前。
一万円札を手渡しながら、お釣りを数えている運転手を横目に見やりながら、僕は窓の外へと目を向けた。
4階の一番左の部屋はもう灯りが煌々と点っている。
タクシーから降りると、少しだけ風が冷たかった。
まだ夏までは遠い、か。。。
そんなことを思いながら、疲れている彼女を気にして、僕はインターフォンを押さずに、カバンの中から猫のホルダーのついたカギを取り出す。
冷たく差し込む風に首を竦めながらマンションのオートロックに鍵を差し込んでいると、運転手がドアを閉めながらこう呟いたんだ。
「…月までの料金は特別に無料にしておくよ、兄ちゃん」
思わず振り返ったとき、そこにはタクシーの影も形もなかった。
なんだか妙におかしくなって僕はガラス扉の向こうに見える銀色の月を見ながら、ちょっとだけ笑った。
−風の前の塵に同じ、かあ。
後ろで扉が閉まる音を聞きながら、僕は彼女のいる月へと急ぐ。
エレベーターで10秒と少しの君の月へ。
湿気のない乾いた暖かさを纏った空気が、一帯に広がって、ちょっぴりヒュプノスの神を起こしてしまいそうな、そんな春の夜。
子供の頃、初めて買ってもらったフルートのように、透き通ったシルバーの月が、目の前に大きくぶら下がっているのが映る。
車道の前で手を上げると、そこに一台のタクシーが滑り込んできた。
「どちらまで行かれます?」
「ちょっとそこまで」
僕が答えると、頭に白いものが混じる堅実そうな運転手は、顔を顰め、怪訝そうな顔で僕を見やった。
軽く咳払いし、僕はもう一度言い直す。
「あそこに見える月まで」
車は滑らかに、推進力を上げて、ふわりと風に乗った。
アルデバランの赤い星を斜め下に見ながら、タクシーは斜度を上げて浮かんでいく。
「月に何しにいくんだい?兄ちゃん」
「ちょっと、人に会いに行くんだ」
「ほー、カノジョさんかい?」
如何にも堅物そうな印象の運転手の声のトーンがちょっぴり柔らかくなる。
硬質のバイオリンからチェロへの変化くらい、微妙な変化ではあったのだけど。
やがて、タクシーは止まり、静かの海の真中で僕は降りた。
地上へと走り去るタクシーのテールランプが赤く2回点滅し、やがて真っ黒な宙の彼方へと吸い込まれていく。
瞼を閉じた。
その裏に浮かぶいくつもの情景。
走り去って、やがて収斂していく距離。
ふと目を開けたときには、君が横にいたんだ。
静かの海の真中で、少しウェーブした髪を払い、ゆったりとしたドレスの裾を引き摺って、僕の手を握る。
なんて穏やかな時間なんだろう。
こんなに満ち足りて、温かな時間があるなんて、思ったこともなかったんだ。
子供の頃、カゼで寝込んでる時にお袋が作ってくれたホットミルクみたいだ、とちょっと思い出して僕は一人でクスクスと笑う。
そんな僕を見て、柔らかな笑顔を見せる君と、一緒に並んで腰を下ろした。
時に制限のない状態でふらりと宙に浮かんでるような、そんな感覚に僕はしばし酔った。
「…さん?」
誰かが僕を揺り動かしている。
このまま目覚めなければいいのに、と思いつつ、目を擦りながらぼやけた視界の向こうに見えてきたのは、タクシーの運転手の顔だった。
「もう着きましたよ」
目を開けると、そこは見慣れたマンションの前。
一万円札を手渡しながら、お釣りを数えている運転手を横目に見やりながら、僕は窓の外へと目を向けた。
4階の一番左の部屋はもう灯りが煌々と点っている。
タクシーから降りると、少しだけ風が冷たかった。
まだ夏までは遠い、か。。。
そんなことを思いながら、疲れている彼女を気にして、僕はインターフォンを押さずに、カバンの中から猫のホルダーのついたカギを取り出す。
冷たく差し込む風に首を竦めながらマンションのオートロックに鍵を差し込んでいると、運転手がドアを閉めながらこう呟いたんだ。
「…月までの料金は特別に無料にしておくよ、兄ちゃん」
思わず振り返ったとき、そこにはタクシーの影も形もなかった。
なんだか妙におかしくなって僕はガラス扉の向こうに見える銀色の月を見ながら、ちょっとだけ笑った。
−風の前の塵に同じ、かあ。
後ろで扉が閉まる音を聞きながら、僕は彼女のいる月へと急ぐ。
エレベーターで10秒と少しの君の月へ。
うら暖かき春の夜。
季節柄、ふと思い出してしまうのが、この一節。
おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし
かの有名な平家物語の一節なんだけど、これを思い返すたびに、ふとそんな例えに使われる春の夜に見る夢ってどんな夢なんだろうって考えてみたりします。
残念ながら、僕はというと、大体いつだってよく眠れるタイプなので、生憎春の夢に特別な夢を見ることはないのかなあ。。。
ただ、なんとなく上のようなシーンが頭に浮かんだわけでした。
これ、なんだろうと思ったら、単に宇多田ヒカルの「traveling」の歌詞の情景だったんスけどねw
よく考えれば、歌詞の中に引用されてたんだっけ。
そんなわけで、ちょっと不思議小説チックに書いてみました。
今日と明日はログインできないので、こんなお茶にごしでしばらくお楽しみください^^;
ちなみに、昨日は。。。結局勉強しないでFLASHサイト見て爆笑したら、夜が終わっちゃった_| ̄|○
うーん、今日こそちゃんと勉強する。。。予定です。。。(;´∀`)(注:予定は未定です)
季節柄、ふと思い出してしまうのが、この一節。
おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし
かの有名な平家物語の一節なんだけど、これを思い返すたびに、ふとそんな例えに使われる春の夜に見る夢ってどんな夢なんだろうって考えてみたりします。
残念ながら、僕はというと、大体いつだってよく眠れるタイプなので、生憎春の夢に特別な夢を見ることはないのかなあ。。。
ただ、なんとなく上のようなシーンが頭に浮かんだわけでした。
これ、なんだろうと思ったら、単に宇多田ヒカルの「traveling」の歌詞の情景だったんスけどねw
よく考えれば、歌詞の中に引用されてたんだっけ。
そんなわけで、ちょっと不思議小説チックに書いてみました。
今日と明日はログインできないので、こんなお茶にごしでしばらくお楽しみください^^;
ちなみに、昨日は。。。結局勉強しないでFLASHサイト見て爆笑したら、夜が終わっちゃった_| ̄|○
うーん、今日こそちゃんと勉強する。。。予定です。。。(;´∀`)(注:予定は未定です)
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