2006 |
01,24 |
(※《1》はコチラから、《2》はコチラからお読みください)
サンドリアに腰をすえて調査を開始してから丸二日が経過した。
その間、ラテーヌからしっとりとした雨雲が流れ、サンドリアの街は僅かに水の景観の中に沈む。
そして、そんな水の街を駆け回ってる間に、獣人支配となっているパルドニア地方の状況から諦めていた夫人の行方は意外な形で明らかになってきた。
「ああ、ジョバイロさんなら確かに見かけたよ。おい、あれっていつのことだっけ?」
「うーん、あれは一ヶ月近く前のことだったかなあ・・・」
そう答えたのはロンフォールのアウトポスト警護をしていたガードたちだった。
若いエルヴァーン特有の気障なポーズに少しいらぬ老婆心を出しそうになったけれど、真摯に応対してくれてる様子でほっとする。
「見かけたってどこで?」
「確かシフトでフォルガンティ地方に出張してたんだ。ヴァズの石がないから、徒歩でウルガランへ向かうんだとか何とかっていってたっけ」
証言からすると、ザルカバードから先の行方はわからないまでも、少なくとも夫人が1ヶ月前にラルグモント峠を抜けて、ボスディン氷河をさまよっていたことは間違いない様子。
その後の追跡は、きっとパートナーがうまくやってくれるだろう。
「そういえば」
と、あれこれ思いを寄せていた私を見ながら、ガードの一人が手を打った。
「ジョバイロさんのところだけど、少し前にお手伝いさんを全て解雇したとかって噂が流れてたっけか」
「え?解雇?」
「ああ。気持ちはよくわかるけどな。愛する人が行方不明だなんて、目覚めワリィし」
若々しい顔に似合わぬ苦々しい表情を浮かべたまま、ガードは頭をポリポリと掻いた。
なんだろう・・・私はこのとき、ふと捕らえどころのない不安に身が包まれていくのを感じたのだった。
どこか違う船に乗り違えてしまったような、そんな感じ。
これが冒険者として築かれた勘なのか、それとも単に私の心情を投影しているだけなのか、判別を付けることは難しかった。
「もしもし、聞こえるかしら?」
私は、ふと耳元のシグナルパールの存在を思い出し、パートナーに語りかけた。
「ああ、パクララか・・・どうだい?何かわかった?」
簡単に事の経緯を説明すると、彼はなにやら考え込んでいる様子で、
「・・・そうすると、ザルカバード方面へ出かけたという事実のみが残る、か。だけど、残念ながらこっちにエルヴァーンの女性が一人で歩き回っていたという情報はないんだ」
「え?ガード以外に見ていた人がいるの?」
「うん、いつもウルガラン山脈を見張っている貴重な人物がいるんだ。詳しいことはまた話すけれど・・・この事件の形がようやく見えてきたな」
そんな彼の声に少し暗い光の色が加わったような気がして、私はその真意を訝しんだ。
色々と追求すればするほど、逆に不透明になっていく−それこそが、私のこの事件に対する印象だったから。
私のパートナーは、このいくつかのパズルの欠片を、どんな絵へと組み立てているんだろう。
「パクララ、一つ確認したいことがあるんだ。
そのガードたちは、『ジョバイロさんを見た』そういったんだよな?」
「ええ、間違いないわ」
そう答えながら、ふと耳元のパールへと手を添える。
少し耳朶が赤く染まって、熱をパールへと伝えているのが自分でも分かった。
「俺たちがおかしいと思うこと。それは、明らかになっていることとの整合性が取れないからだと思うんだ。
事実は事実として受け止め、必要以上の情報を俺たちが加えていないかどうか−それをきちんと認識することが、今回の事件の鍵なんだろうね」
「どういうこと?」
「たとえば・・・ソールスシは好き?と俺が君に聞いたとしようか。君はそれを聞いてどう思う?」
私は、突然の彼の投げかけに半ば戸惑いながらパールから流れるテノールに耳を傾け続けた。
「うーん。貴方がスシ好きかもしれないと思うんじゃないかしら。わざわざ聞くくらいですもの」
「そう、それが考えるという行為の尊さだと思う。でも・・・それは事実ではなく、君の考えが反映されてるだけなんだ。そして、それは伝聞の果てに真実なのかどうか、境目が分からなくなる。
いつしか、俺はソールスシが大好物、そんな情報に摩り替わるかもしれない。そのすり替えは実に巧妙なスキームなんだ」
つまり−私と彼が収集した情報のうち、何かを私たちが「当然」と思い込み、その類推こそが事件を分かりにくくしている。そういうことなんだろうか。
「貴方は・・・奥様の行方を突き止められるの?」
「ああ。俺の勘が間違ってなければね。しかし・・・俺の知る真実は、あくまで一面から見ただけのもの。事件を解体してしまうことで、壊れてしまうもののことを考えると・・・どうしたらいいかよくわからないんだ」
そういうと、彼は一つ大きく息を吐いた。
パール越しに聞こえるその息が本当に耳元に感じられたような気がして、私は思わず辺りを見回す。
見えるのは、いつもと変わらないサンドリアの街並み。
いつもならすぐ近くで笑ってくれる彼の笑顔は見当たらなかった。
「貴方が信じるように進めばいいと思う。依頼主の依頼に100%応える、それこそが今私たちがすべきことではないかしら?」
「・・・そうだな。ありがとう」
やっと明るくなった彼の声に、私も少し晴れやかな気分になり、今日は早めにレンタルハウスへと歩みを進めたのだった。
「お帰りなさいクポ」
いつもと同じ表情で優しく私を包んでくれるモグの表情を見ながら、私はふと今回の情報を整理してみようと思った。
依頼主はサンドリアの新興貴族であるジョバイロ候。
その依頼はというと、ウルガラン山脈へ行くという書置きを残して1ヶ月前に姿を消した妻の行方を探して欲しいというものだった。
追跡したところ、サンドリアから東ロンフォールへ出て、そこからさらにフォルガンティ地方にあるボスディン氷河へと至ったという証言をガードから貰っている。
しかし、当時から今に至るまで、パルドニア地方は獣人によって支配されており、ザルカバードからウルガラン山脈でのガードの証言を得ることは叶わなかった。
一方で、パートナーの調査によれば、エルヴァーンの女性が一人でウルガラン山脈にいたという証拠は得られなかったそう。
この点は、もう少し詳細を聞く必要があるのかもしれなかった。
気になっていることは二つ。
一つは、冒険者ではないはずの妻という候の言葉とは裏腹に、家には白魔法のスクロールが存在していたこと。
候の立ち振る舞いは、冒険者としての素養や気の存在は感じさせないものだったように思うのだ。
そうすると、失踪した妻がこのスクロールを使用した可能性が高いはず。
もう一つは、書置きが、最初の依頼時点では存在しなかったこと。
どちらも、依頼主の言葉に少し疑念を抱かせる材料になり得るのではないだろうか。
しかし・・・あの候の言葉がどうしても私の胸の奥にかすかな痛みを残しているのだった。
『私は私なりに愛している』
あの言葉を告げたときの彼の表情は、どうしても嘘をついているものとは思えなかった。
なぜなら−私もその痛みを共有する一人の女だから。
さらに2日が経過した。
『決着を付けよう』
そうパートナーから伝言があったのは昨日のことだ。
そして、私は彼と一緒に、ジョバイロ邸の客室で候と再び対面を果たした。
「わかりましたか、妻の行方は?」
投げかけるジョバイロ候の目の下には隈がくっきりと残っている。
美男子とも言える繊細なその顔も、今日ばかりは疲労の色が隠せない様子だった。
そんな候を真っ直ぐ見つめながら、彼は一歩前に足を踏み出した。
私とパートナーとの間では、未だ不明のままだった妻の行方。
しかし、私はパートナーが次に紡いだ言葉に心から驚いたのだった。
「はい、奥様は・・・ここにいらっしゃいます」
サンドリアに腰をすえて調査を開始してから丸二日が経過した。
その間、ラテーヌからしっとりとした雨雲が流れ、サンドリアの街は僅かに水の景観の中に沈む。
そして、そんな水の街を駆け回ってる間に、獣人支配となっているパルドニア地方の状況から諦めていた夫人の行方は意外な形で明らかになってきた。
「ああ、ジョバイロさんなら確かに見かけたよ。おい、あれっていつのことだっけ?」
「うーん、あれは一ヶ月近く前のことだったかなあ・・・」
そう答えたのはロンフォールのアウトポスト警護をしていたガードたちだった。
若いエルヴァーン特有の気障なポーズに少しいらぬ老婆心を出しそうになったけれど、真摯に応対してくれてる様子でほっとする。
「見かけたってどこで?」
「確かシフトでフォルガンティ地方に出張してたんだ。ヴァズの石がないから、徒歩でウルガランへ向かうんだとか何とかっていってたっけ」
証言からすると、ザルカバードから先の行方はわからないまでも、少なくとも夫人が1ヶ月前にラルグモント峠を抜けて、ボスディン氷河をさまよっていたことは間違いない様子。
その後の追跡は、きっとパートナーがうまくやってくれるだろう。
「そういえば」
と、あれこれ思いを寄せていた私を見ながら、ガードの一人が手を打った。
「ジョバイロさんのところだけど、少し前にお手伝いさんを全て解雇したとかって噂が流れてたっけか」
「え?解雇?」
「ああ。気持ちはよくわかるけどな。愛する人が行方不明だなんて、目覚めワリィし」
若々しい顔に似合わぬ苦々しい表情を浮かべたまま、ガードは頭をポリポリと掻いた。
なんだろう・・・私はこのとき、ふと捕らえどころのない不安に身が包まれていくのを感じたのだった。
どこか違う船に乗り違えてしまったような、そんな感じ。
これが冒険者として築かれた勘なのか、それとも単に私の心情を投影しているだけなのか、判別を付けることは難しかった。
「もしもし、聞こえるかしら?」
私は、ふと耳元のシグナルパールの存在を思い出し、パートナーに語りかけた。
「ああ、パクララか・・・どうだい?何かわかった?」
簡単に事の経緯を説明すると、彼はなにやら考え込んでいる様子で、
「・・・そうすると、ザルカバード方面へ出かけたという事実のみが残る、か。だけど、残念ながらこっちにエルヴァーンの女性が一人で歩き回っていたという情報はないんだ」
「え?ガード以外に見ていた人がいるの?」
「うん、いつもウルガラン山脈を見張っている貴重な人物がいるんだ。詳しいことはまた話すけれど・・・この事件の形がようやく見えてきたな」
そんな彼の声に少し暗い光の色が加わったような気がして、私はその真意を訝しんだ。
色々と追求すればするほど、逆に不透明になっていく−それこそが、私のこの事件に対する印象だったから。
私のパートナーは、このいくつかのパズルの欠片を、どんな絵へと組み立てているんだろう。
「パクララ、一つ確認したいことがあるんだ。
そのガードたちは、『ジョバイロさんを見た』そういったんだよな?」
「ええ、間違いないわ」
そう答えながら、ふと耳元のパールへと手を添える。
少し耳朶が赤く染まって、熱をパールへと伝えているのが自分でも分かった。
「俺たちがおかしいと思うこと。それは、明らかになっていることとの整合性が取れないからだと思うんだ。
事実は事実として受け止め、必要以上の情報を俺たちが加えていないかどうか−それをきちんと認識することが、今回の事件の鍵なんだろうね」
「どういうこと?」
「たとえば・・・ソールスシは好き?と俺が君に聞いたとしようか。君はそれを聞いてどう思う?」
私は、突然の彼の投げかけに半ば戸惑いながらパールから流れるテノールに耳を傾け続けた。
「うーん。貴方がスシ好きかもしれないと思うんじゃないかしら。わざわざ聞くくらいですもの」
「そう、それが考えるという行為の尊さだと思う。でも・・・それは事実ではなく、君の考えが反映されてるだけなんだ。そして、それは伝聞の果てに真実なのかどうか、境目が分からなくなる。
いつしか、俺はソールスシが大好物、そんな情報に摩り替わるかもしれない。そのすり替えは実に巧妙なスキームなんだ」
つまり−私と彼が収集した情報のうち、何かを私たちが「当然」と思い込み、その類推こそが事件を分かりにくくしている。そういうことなんだろうか。
「貴方は・・・奥様の行方を突き止められるの?」
「ああ。俺の勘が間違ってなければね。しかし・・・俺の知る真実は、あくまで一面から見ただけのもの。事件を解体してしまうことで、壊れてしまうもののことを考えると・・・どうしたらいいかよくわからないんだ」
そういうと、彼は一つ大きく息を吐いた。
パール越しに聞こえるその息が本当に耳元に感じられたような気がして、私は思わず辺りを見回す。
見えるのは、いつもと変わらないサンドリアの街並み。
いつもならすぐ近くで笑ってくれる彼の笑顔は見当たらなかった。
「貴方が信じるように進めばいいと思う。依頼主の依頼に100%応える、それこそが今私たちがすべきことではないかしら?」
「・・・そうだな。ありがとう」
やっと明るくなった彼の声に、私も少し晴れやかな気分になり、今日は早めにレンタルハウスへと歩みを進めたのだった。
「お帰りなさいクポ」
いつもと同じ表情で優しく私を包んでくれるモグの表情を見ながら、私はふと今回の情報を整理してみようと思った。
依頼主はサンドリアの新興貴族であるジョバイロ候。
その依頼はというと、ウルガラン山脈へ行くという書置きを残して1ヶ月前に姿を消した妻の行方を探して欲しいというものだった。
追跡したところ、サンドリアから東ロンフォールへ出て、そこからさらにフォルガンティ地方にあるボスディン氷河へと至ったという証言をガードから貰っている。
しかし、当時から今に至るまで、パルドニア地方は獣人によって支配されており、ザルカバードからウルガラン山脈でのガードの証言を得ることは叶わなかった。
一方で、パートナーの調査によれば、エルヴァーンの女性が一人でウルガラン山脈にいたという証拠は得られなかったそう。
この点は、もう少し詳細を聞く必要があるのかもしれなかった。
気になっていることは二つ。
一つは、冒険者ではないはずの妻という候の言葉とは裏腹に、家には白魔法のスクロールが存在していたこと。
候の立ち振る舞いは、冒険者としての素養や気の存在は感じさせないものだったように思うのだ。
そうすると、失踪した妻がこのスクロールを使用した可能性が高いはず。
もう一つは、書置きが、最初の依頼時点では存在しなかったこと。
どちらも、依頼主の言葉に少し疑念を抱かせる材料になり得るのではないだろうか。
しかし・・・あの候の言葉がどうしても私の胸の奥にかすかな痛みを残しているのだった。
『私は私なりに愛している』
あの言葉を告げたときの彼の表情は、どうしても嘘をついているものとは思えなかった。
なぜなら−私もその痛みを共有する一人の女だから。
さらに2日が経過した。
『決着を付けよう』
そうパートナーから伝言があったのは昨日のことだ。
そして、私は彼と一緒に、ジョバイロ邸の客室で候と再び対面を果たした。
「わかりましたか、妻の行方は?」
投げかけるジョバイロ候の目の下には隈がくっきりと残っている。
美男子とも言える繊細なその顔も、今日ばかりは疲労の色が隠せない様子だった。
そんな候を真っ直ぐ見つめながら、彼は一歩前に足を踏み出した。
私とパートナーとの間では、未だ不明のままだった妻の行方。
しかし、私はパートナーが次に紡いだ言葉に心から驚いたのだった。
「はい、奥様は・・・ここにいらっしゃいます」
随分お待たせしちゃいましたが、ようやく続きが更新できてほっとしておりますw
次からは、いよいよこの事件のトリックを暴く形になります。
奥さんは本当に無事なのかどうか。
食い違う目撃証言の謎。
その辺りが次回以降のポイントでしょうか^^;
解決編は1回の更新で終わるかは少し微妙な分量ですが、ココまで来たら最後までいかないとなあ。
トリックについては、ちょっとアンフェアかもしれませんが、続きをお楽しみにっ。
次からは、いよいよこの事件のトリックを暴く形になります。
奥さんは本当に無事なのかどうか。
食い違う目撃証言の謎。
その辺りが次回以降のポイントでしょうか^^;
解決編は1回の更新で終わるかは少し微妙な分量ですが、ココまで来たら最後までいかないとなあ。
トリックについては、ちょっとアンフェアかもしれませんが、続きをお楽しみにっ。
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俺推理
・奥さんはテレポ石を持っていない
・故に奥さんはおそらくテレポヴァズのスクロールを使っていない。
・奥さんはウルガランに入ってない。
・テレポヴァズのスクロールは使用済み
・後から出てきた手紙
・解雇された使用人
↓ここから俺推理
[色
おそらく、書類上で奥さんが死んだことにしたかっただけか?しかしなぜ?[/色]
・故に奥さんはおそらくテレポヴァズのスクロールを使っていない。
・奥さんはウルガランに入ってない。
・テレポヴァズのスクロールは使用済み
・後から出てきた手紙
・解雇された使用人
↓ここから俺推理
[色
おそらく、書類上で奥さんが死んだことにしたかっただけか?しかしなぜ?[/色]
無題
ヒントは、ミナさんがあげてるものの中に入ってますので、あまりここでは言わずに・・・。
>ひーほーさん
あー、いいとこついてるかも?
ただ、テレポヴァズ使用済みってのは、使用済みでも石がないからあの経由ってことを裏付けてるだけなんですけどね^^;
これから続きを書かねばー!
>みなさん
裏の裏で真相に近いとこにいそうな感じなんだけど、根本の設定が違うというか・・・w
んまあ、そのうち分かりますw
>なっちさん
推理するには、ヴァナの世界はワープとかがあって難しい側面もあるんですよね・・・。
まあ、推理というよりは、後で答えを見てナットクしてもらえればいいなーと。
>ひーほーさん
あー、いいとこついてるかも?
ただ、テレポヴァズ使用済みってのは、使用済みでも石がないからあの経由ってことを裏付けてるだけなんですけどね^^;
これから続きを書かねばー!
>みなさん
裏の裏で真相に近いとこにいそうな感じなんだけど、根本の設定が違うというか・・・w
んまあ、そのうち分かりますw
>なっちさん
推理するには、ヴァナの世界はワープとかがあって難しい側面もあるんですよね・・・。
まあ、推理というよりは、後で答えを見てナットクしてもらえればいいなーと。
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